「貧血気味で」という言葉に憧れたことがある。そんなセリフを吐く女性に限って「いい女」が多いような気がするからだ(完全に私の先入観かもしれないけれど)。とにかく貧血気味の女性は、いかにも女性らしくてはかなげな感じがする。貧血どころか、健康診断で「あなたの血、濃っ!」とか言われる私は、貧血とは無縁である。ゆえにはかなげとは夢にも程遠い関係だ。

そんな私が初めての一人暮らしをする際に選んだアパートは、家主に似ても似つかない「はかなげ」なアパートだった。まず家賃が儚い。まあ、これはよいとして、その分窓ガラスがかなり脆弱なアパートであった。家を内見したときには窓ガラスまではあまり見なかったのだけど、引っ越して初めてよくよくガラスを見てみたら、「バカラかっ」と思わず突っ込みを入れたくなるほどガラスが薄い。まあ、その表現は大げさかもしれないけれど、家屋に使用される窓ガラスとしては見たことがないくらい薄いものだった。いかにもすぐに割れてしまいそうなので、窓の開閉には気を使った。

そして寒い冬が来ると、ガラスが薄いせいか部屋がものすごく寒かった。暖房をつけても暖気が外に漏れているような気がしてならないほど、そのアパートの窓ガラスは頼りなかった。そして時々ラップ音のようなものも聞こえた。事故物件か!?と背筋が凍ったけど、どうやら気温が下がって外気と部屋の寒暖差が激しくなると窓ガラスがピシっと鳴るようだった。

そんな儚げなアパートに4年ほど住んだのちに結婚して夫と新しいアパートに住み始めたのだけど、窓ガラスは2重で冬は暖かいし、外気と部屋の寒暖差が激しくなってもラップ音が聞こえることもない。本当に不思議なアパートに住んでいたのだな、と今となっては何だか懐かしく思えるのだった。